'."\n" ?> 南亭駄樂の「柿愁庵雑記」:裁判官の謝罪と袴田事件~個別事件にコメントした裁判官~:南亭駄樂
南亭駄樂の「柿愁庵雑記」

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2009年8月25日

裁判官の謝罪と袴田事件~個別事件にコメントした裁判官~:南亭駄樂

 誤判に関わった裁判官は謝罪すべきか――再審無罪になった足利事件に関わった裁判官に対して毎日新聞がアンケートを行った(2009年8月21日朝刊)。質問は「菅家氏に謝罪する気持ちはあるか」「一般的に自らが審理した事件を説明すべきと思うか」「原審を破棄しなかったことを今どう思うか」など11項目(元最高裁判事には17項目)で、無期懲役判決を確定させた当時の最高裁判事5人と再審請求を退けた地裁裁判官3人の全員が「個別事件にはコメントはしない」として回答しなかったという。

◎裁判官は「個別事件にはコメントしない」のか?
 この記事を見て30数年前に再審棄却が続いていた島田事件を取材していた頃を思い出した。当時毎日新聞にいた私と中日新聞(東京新聞)の記者は、静岡地裁で死刑判決を出した一人の元裁判官にアプローチした。私が訪問したときは奥さんが玄関で対応してくれた。会わせて欲しいという私に対して「主人は裁判については一切話さない、と言っていますので...」とすまなさそうに言い、私はコメントすることの意義を説明してくらいつく。突然奥のほうから「帰ってもらってくれ!!」という怒鳴り声が聞こえ、奥さんは引っ込んでしまった。
 私は、裁判官が個別の事件に簡単にはコメントしないだろうと思っていた。たぶんそのころの記者はほとんどが不可能だと思っていただろう。実際2人の新米記者以外、誰も元裁判官にアプローチしなかったのだ(島田事件に関心を示す記者も少なかったが...)。

◎袴田事件の裁判経過を公表した裁判官
 ところが、再審請求中の袴田事件(1966年6月30日、静岡県清水市=現・静岡市清水区=で起きた一家4人殺人放火事件で元プロボクサーの袴田巌さんが逮捕され、死刑判決を受けた)でその考えが覆された。静岡地裁で死刑判決を言い渡した当時の判事が「自分は無罪を主張した」と発言したのだ。
 2007年の1月と5月に、熊本典道・元判事は、袴田さんのお姉さんに会って謝罪をし、再審請求への支援を約束した(熊本ブログ)。熊本さんによると、静岡地裁で判事として袴田事件を担当、袴田さんはやっていないと思って無罪を主張したが裁判長ともう一人の判事に押され、1968年9月の判決は2:1で有罪(死刑)となった。下級審では死刑判決は全会一致の形をとっているらしいが、この場合矛盾している。フリー百科事典ウィキペディアには当時のこととして「この判決には、他にない厳しい口調で検察の捜査・立証を批判している部分があり、『合議体の分裂』、つまり、『合議で被告人の有罪に異を唱えた裁判官がいた』可能性が以前から指摘されていた。」という記述がある。判決文を書く当番は熊本さんだった。熊本さんは判決の7カ月後、良心の呵責に耐えきれずに辞職したという。
 熊本さんは2007年6月に袴田さんの再審開始を求める上申書を最高裁に提出した。しかし、最高裁は2008年3月に特別抗告を棄却、再審開始を認めなかった。

◎裁判官は「個別事件にコメントしてはいけない」のか?
 2007年3月3日付読売新聞「『無罪の心証』袴田事件の元裁判官、39年後の告白」には、次のようなくだりがある。
<最高裁関係者によると、裁判官や元裁判官が、自身が関与した裁判の「評議の秘密」と称する内容を明かすのは極めて異例。「評議の秘密」を規定した裁判所法には、現職か元職かの規定はないが、「秘密は終生守るのが常識」という。罰則はないが、現職であれば、裁判官分限法による処分や裁判官弾劾法に基づき罷免される可能性があるという。>
冒頭の毎日新聞の足利事件に関連した裁判官アンケートに戻る。このアンケートの質問内容の意図はわかるが、実際に裁判官が回答すると思って企画したのだろうか。回答しないことも予想してそれもニュースになると思ったのだろうか。
 このようなアンケートをやるなら前記の読売新聞記事にある最高裁の見解にまで踏み込んで欲しい。誤判の可能性もある裁判官の心証、裁判官の良心、法曹界の常識、裁判官分限法などさまざまな問題を浮き彫りにできるはずだ。

◎「良心の呵責に耐え兼ねて...」を避けるために
 熊本さんの例でいうならば、死刑判決が表向き全会一致ならば、実態としても一人でも反対がいれば死刑判決は出すべきではない。裁判員制度ではなおさらだ。一人でも死刑に反対ならば死刑判決は出すべきではない。裁判員が良心の呵責に耐え兼ねて一生苦しみ続けるというようなことがあってはならない。

2009年8月25日 04:25

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