2009年11月 8日
日曜新聞書評欄簡単レビュー:三室 勇
日曜日恒例の新聞書評欄紹介。朝毎読日経産経地方紙の6紙の中から。
フランスの文化人類学者・思想家のレヴィ=ストロースが亡くなった。私たちの意識がつくり出している世界の背後に隠れた精緻な数学的な構造があることを、『親族の基本構造』などで解き明かし、構造言語学者のローマン・ヤコブソンとともに思想界に「構造主義」と呼ばれる潮流をつくりだした人物である。各紙の報道をみると、亡くなった日が微妙にちがう。30日と書いているところが多いが、ロイターは31日と書き、共同通信は31日から1日にかけての夜と書いているが...。
毎日から
W・P・ブロッカー、R・クンジグ『CO2と温暖化の正体』(河出書房新社、2520円)、評者・海部宣男。2007年のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第4次評価報告では、温暖化は明らかに人類の活動が直接関与していること、気候変動は深刻な影響を及ぼすこと、これを遅らせる、さらに逆転させるには現世代のみが可能であることを、世界の数千人の専門家集団の共通認識として出した。近代・資本主義は欲望機械をフル稼働して生命を生み出した地球そのものを追い詰め、地球の気象現象に知らぬ間に介入し、人類の未来を破綻の縁まで追いやってきたということであろうか。
本書は、氷河期を中心とする気象学者の巨人といわれているブロッカーとサイエンスライターのクンジグの共著で、温暖化の科学的背景を数々の証拠を挙げて明らかにしている。ブロッカーももちろん人為的起因説にたつ。温暖化懐疑論はトンデモ本以外にも日本の書店に行けば多数出ているが、まず本筋を抑えてからでないと、議論にならないのではないだろうか。
藤田志穂『ギャル農業』(中公新書ラクレ、735円)、短評。「ノギャル」という言葉を初めてみた。農業をするギャルのことらしい。派手な厚化粧で田植えに出たり、稲刈りをする話がテレビニュースになったらしい。その仕掛け人が著者である。彼女はギャル風体で就職活動をしたが、ギャル、ギャルとバカにされる。そこで就職を止め、ギャル相手に起業して成功する。次は一念発起で「ノギャル」農業へ転身。若者に食と農を考えてもらいたいと取り組んだという話だ。
日経――
レオン・ヘッサー『ノーマン・ポーローグ』(悠書館、2000円)、評者・最相葉月。副題に「"緑の革命"を起こした不屈の農学者」とある。ポーローグは1970年ノーベル平和賞をもらっている。「高収量で病気に強い米や小麦、トウモロコシなど"奇跡の品種"を開発し、数億人を飢えから救った『緑の革命』」で知られる人物である。かれは1929年の大恐慌で飢餓が人間を変えることを知り、植物病理学を学び、ロックフェラー財団の科学者チームに参加し、穀物類の品種改良に取り組んだという。後年は遺伝子組み換えに賛成の立場に立ち、批判されている。評者は「ハイブリッド種子や化学肥料を用いる手法は大型資本による種苗や農地の独占を招き、地域が対立、農村自給率が低下したという現状報告はポーローグを打ちのめしたはずなのだ」と書いている。実は「緑の革命」には化学肥料、除草剤などが大量に投入された「化学薬品の革命」でもあったという批判がある。このあたりは別の視点で精査してもらいたいものだ。
S・M・ボードイン『貧困の救いかた』(青土社、2400円)、短評。厚労省は先月、日本の貧困率は15.7%と初めて公表した。自民党政権時代はなかった発表である。これを明らかにしないと改善度も明らかにならない。自民党政治はだれのための政治だったのかがわかる。著者は米国の貧困の研究者。出版社の宣伝文は以下の通り。「大航海時代をさかいに世界経済が統合され、貧困はその姿と意味を変えた。グローバリゼーションが拡大するプロセスとともに、貧困の変貌とその救済の歴史をさぐり、現代の国家規模の貧困救済や世界規模の福祉政策のありようまでを考察する画期的著作」。発展途上国だけでなく先進国にも貧困はある。本書は目次をみると、歴史を追いながら貧困の原因とその対策を追うかたちに構成されているようだ。まとめの「なぜこれほど楽観的なのか?」はぜひ手にとって読んでみたい。政治家にはぜひ読んでもらいたい本である。
徳永恂『現代思想の断層』(岩波新書、780円)、評者・清水太吉。本書は、ウェーバー、フロイト、ベンヤミン、アドルノらが取り上げられている。評者は冒頭で「過ぎ去った20世紀の諸思想は、未完成だが『大きな物語』を述べたものが多かった。この本は4人の思想家の断面を切り開き、彼らの思想の何が未完成であり、何を今日に問うているのかを尋ねようとしたものである」とかく。大きな物語に挑んだ思想家の営為、その雄々しいまでの勤勉さがあった。そうさせたものは何か。また、しかし中断(未完に終わった書物)せざるを得なかったその思考の中止点にはどんな断層をみることができるのか。まずそれをしっかり見つめることでしか、いまある思想の混沌を切り開くことはできない。そんな凛とした姿勢が伝わってくる。評者・清水は「著者によると、形式的情報化と実証主義的小心さの21世紀諸思想は、以上のような未解決の問いに向き合おうとしない、という。現代思想への痛烈な批判の書」と評している。
京都――
ポリー・トインビー、デイヴィット・ウォーカー『中流社会を捨てた国』(東洋経済新報社、2100円)、評者・暉峻淑子。この国は米国、英国をさしている。米国は1980年代、最高経営責任者(CEO)の平均収入は肉体労働者の42倍だった。それが2000年に531倍になり、2007年に660倍になった。英国でも同様に富裕層との格差が大きく開いたという。日本でも小泉時代から格差が問題になった。こうした社会は社会的一体感が喪失し、貧困に陥った人々に人間の尊厳にかかわるストレスが生まれ、病気の発生率、死亡の発生率を貧困層で高める結果につながる。また子どもに貧困のしわよせがいく。子どもの言語環境調査によると、専門職家庭の子どもは4歳までに5000万語の語彙を親から聞くが、福祉家庭の子どもは1200万語にとどまるという。語彙も前者は肯定的な内容、後者はそれに比べて否定的な内容が9倍高い。評者はその処方箋として本書の主張、「累進課税の強化。税の透明化による所得の再分配。特に子供の育つ環境と教育への配慮」を紹介している。
2009年11月 8日 10:51
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