2009年10月25日
日曜新聞書評欄簡単レビュー:三室 勇
日曜日恒例の新聞書評欄紹介。朝毎読日経産経地方紙の6紙の中から。
産経――
恵隆之介『昭和天皇の艦長 沖縄出身提督 漢那憲和の生涯』(産経新聞出版、1890円)を佐藤優が評を書いている。漢那憲和は沖縄出身の軍人であるが、琉球王の娘と結婚しており、沖縄の保守思想を引き継ぐ人物で、もちろん天皇主義者である。その生涯を紹介した本だが、評者は、今沖縄は普天間基地移設問題、日米地位協定見直しなどを巡り政治的に揺れているが漢那憲和のような人物に光をあてることで、「沖縄には多様な意見があることを知ることがわが国家体制強化に貢献すると信ずる」と本書を推奨している。佐藤という人は国家主義者であることを自認している。佐藤優はいかにして国家主義者になったのかは彼の一連の書籍を読めば一様は理解できる。
谷沢永一『日本の運命を決めた「坂の上の雲」の時代 立志編・風雲編』(李白社・1470円)、評者・渡部昇一。冒頭の書き出しがふるっている「かつてある書評に、私よりも反左翼的な人物がいると書かれたことがある。その人物は産経新聞に『坂の上の雲』を連載していた司馬遼太郎である」。次いで、岩波、朝日、NHKの「敗戦利得者史観」に抗する姿勢が司馬遼太郎にはあった、とつづく。11月から始まる3年かがりのドラマ「坂の上の雲」は、日本による「韓国併合」100周年にあたる今年からスタートする。司馬は生前この小説のテレビ化を拒んでいたという。その理由などはジャーナリスト・ネットの夏史邦氏の「『坂の上の雲』のテレビドラマ化」をお読みいただければと思う。NHKのドキュメント「ジャパン・デビュー」も今後どう展開するかが見物である。
真鍋智治・チームカワイイ著『カワイイパラダイムデザイン研究』(平凡社、2940円)、評者・篠原知存。著者は建築が専門という。デザインとしてカワイイ、カワイクナイの境界がどこのあるのかを探ろうする。「カワイイ」とは、まず、こどもっぽさが頭に浮かぶ。それは完成度が低い、ゆるい、やわらかい、小さい、不揃いである、なつかしい、アナログ...。そこで水玉を均間隔なものからゆらぎをもたせ、不規則なものまで順に並べると、カワイイの臨界点が存在することがわかる。今確かに「カワイイ」文化がある。それは何を示すのだろうか。
読売――
小沢信男『東京骨灰紀行』(筑摩書房、2200円)、評者・松山巌。著者は82歳、東京に生まれ、東京に暮らしてきた。その著者は「骨灰」を求めて東京中を歩き回る。地表の下には死者たちが累々と堆積している。その印に大量に亡くなった場所などには追善の石碑が刻まれている。それを探し求めて歩く。まずは浅草の回向院へ。そこには江戸時代の大火で多数の死者が出たことを記した石碑が建つ。日本橋の牢屋敷跡、千住吉原の遊女が投げ込まれた浄閑寺...。評者は文章は暗くない。ユーモアがあり、あきれたり、哀れんだり、笑ったりしながら、読者に語りかけてくるらしい。小沢節である。どうも人はこんなふうにして死ぬとはおもわなかった、というようにして死ぬのではないか。そんなことを思わせてくれる。
岡谷公二『原始の神社をもとめて』(平凡社新書、880円)、評者・小野正嗣。著者は80歳。島や森に惹かれ続けた人のように思う。日本、沖縄、済州島をめぐり古代人の聖なる場所をめぐり、思索した本だ。済州島の堂と沖縄の御獄(うたき)の相似性など文化や歴史におもいをはせて、古代神社のありようを探ろうとする。評者は、「音のしない葉むらのそよぎ」を思わせる静謐で美しい文章、と書いているが、そうした文章をぜひ読みたいとおもう。
日経――
有川浩『フリーター、家を買う。』(幻冬舎、1470円)、評者・小西聖子。著者は『図書館戦争』などのベストセラー作家らしい。この話は、会社を3か月でやめ、フリーターで暮らす、努力嫌いで傷つきやすく、プライドだけは高いというダメ青年がいかにして家を買うまでに至ったかというセクセスストーリーである。そこには家族との葛藤があるわけだが、一念発起して夜間道路工事のバイトに励むようになるかは、読んでのお楽しみだが、評者はこの本の効用として、履歴書の書き方、面接のコツ、オヤジ世代には若い者との接し方のノウハウが得られそうである。
島崎治道『食料自給率100%を目ざさない国に未来はない』(集英社新書、714円)。短評だが、どきっとさせられる。米仏は120%、英国で70%。日本は40%で、農地・農家が減ってきている。日本は世界の全穀物輸出量の9%を輸入している。これだけでも不安になる。小麦、大豆の生産からまず始めよと本書は提言する。
2009年10月25日 09:49
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