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2009年9月 6日
日曜新聞書評欄簡単レビュー:三室 勇
恒例の日曜新聞書評欄からの紹介。今日は朝日新聞から。
新井政美『オスマン帝国はなぜ崩壊したのか』(青土社、2520円)、評者・柄谷行人。オスマン帝国は623年続いて、第一次世界大戦後の1922年に多数の国家に分裂し、トルコ共和国に縮小された。1990年以後の旧ユーゴスラビアやイスラム圏で起こる問題はオスマン帝国が以前統治していたところだ。オスマン政府の場合は西洋諸国、ロシアから浸食されるなかで、西洋化し、国民国家をつくったという経緯のようだ。ここでも日本同様、軸は西洋近代をモデル化せざるを得ない時代背景がある。「本書が論じているのは、オスマン帝国の近代化を担ってヨーロッパに留学したさまざまな知識人群像である。かれらの言動は矛盾に引き裂かれていた。国内では政体に反対し、新聞を発行し、小説を書き、言文一致のトルコ語を創出する。西洋に対しては、イスラム教を擁護し近代西洋思想を批判する」(柄谷評)。これは明治期の日本の姿が二重写しに見える。西洋近代との位置取りが、その後の曲折に大きく影を投げかけている。評者も「われわれにとって疎遠な話ではない」と書いている。
ローレンス・ライト『倒壊する巨塔 アルカイダと「9.11」への道 上下』(白水社、各2520円)、評者・松本仁一。9.11の実相に迫った調査報道で07年にピュリツァー賞を受賞している。ビンラディンの生い立ちから彼の身長まで、事細かに調べ上げ、実戦経験のない夢想家だった彼が、過激な指導者で拷問を受けたことがあるザワヒリに出会い、民間人を犠牲にしても仕方がないという考えを持つザワヒリと組むことで、アルカイダが生まる、その経緯を追っている。アルカイダは93年に貿易センタービル爆破事件を起こしているが、FBIはイスラム過激派を警戒していた。その捜査責任者はジョン・オニール特別捜査官だった。すでにCIAは過激派リストをもっているが、FBIに渡そうとしない。9.11があってはじめて、リストが渡ったという。オニールについては女性関係まで取材し、人物像をリアルに描き出している。こうした徹底した調査報道と実名入りの記述がこの事件の真相の一端を明らかにする。
諸橋泰樹『メディアリテラシーとジェンダー 構成された情報とつくられた性のイメージ』(現代書館、2310円)、耳塚寛明。この本は、「メディアがどんなジェンダーを構成しているのか。女性雑誌の内容分析によって、メディアが女性を思考停止させ、女性としての「勝ち組」(セレブ)を指向させていることや女性に対する「痩せ強迫」の構成を明らかにする」(評者)。もう1つは、メディアがリアルをどう構成しているかを検証する。日本でも社会的性別から自由に自己決定できるジェンダーフリーが論じられ始めた頃に、教育現場での性教育を過激な左翼思想結びつくものとし、ジェンダーリーとともに自民党右翼から激しい批判、バックラッシュが起こったことがある。こうしたことを含めてメディアが作り出す男・女には批判的な見方、リテラシーが欠かせないことは確かである。
日経――
ニナ・バーリー『神々の捏造 イエスの弟をめぐる「世紀の事件」』(東京書籍、1800円)、評者・吉田司。2002年にエルサレムでイエスの弟、ヤコブの骨箱が発見されたというニュースがあった。イエスの実在を伺わせるもので、キリスト教世界では一大センセーショナルな事件だった。ところが2004年に古美術マニアのゴランの詐欺事件であったことがわかった。本書は、このゴランとそれを追うガノール刑事を追跡劇を描き出す。もう1つ面白いのは、実はガノールはさらに古い旧約時代のソロモン王の実在を伺わせるヨアシュの碑文の偽造事件を追っていた。この碑文がもしホンモノと認定されれば、ソロモンの実在が証明され、イスラム教徒の管理下の神殿の丘だけでなく、パレスチナ全土の領有権主張の根拠になりうる。こうした真贋には国家・民族の未来にも影響しかねない壮大な偽造ということになる。
読売――
ベネディクト・アンダーソン『ヤシガラ椀の外へ』(NTT出版、2200円)、評者・田中純。『想像の共同体』の著者が日本の研究者、学生に自らの知的遍歴を語った本で、日本でのオリジナルな出版物である。インドネシアでは「ヤシガラ椀の下のカエル」という諺があり、頭上の椀を天空と思い込むような、狭い独りよがりを戒める言葉として使われる。偏狭なナショナリズムへの戒めである。それは著者の生育歴からもいえる。中国生まれ、アイルランド育ち、ケンブリッジ後はアメリカで東南アジアをフィールドに政治学を研究してきた。うち向きになりがちな日本人に彼の言葉が魅力的に響くのではないか。
2009年9月 6日 09:46
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