'."\n" ?> 川瀬俊治の「森羅万象」:日曜新聞読書欄簡単レビュー:川瀬俊治
川瀬俊治の「森羅万象」

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2009年10月18日

日曜新聞読書欄簡単レビュー:川瀬俊治

 毎週恒例の日曜新聞読書欄簡単レビューです。まず小説から。

 植えつけられた知識を活用して小説を書く手法は、事実に根ざした時代小説で当然採用される手法だ。それをひっくり返すことはない。ところが折原一『逃亡者』(文芸春秋、1995円)-朝日―はそうではない。自らを整形してまで時効まで逃げとおそうとした容疑者がいたが、この事件をモデルにしている。折原は最初に事件の犯人が誰かを読者に提示するのである。すると読者は犯人探しを通例とする推理小説とは違い、犯人を追いかける探偵、刑事の行動に自分を投影して、すでに事件として知られた舞台に乗り出していく。ところが、容疑者は新聞報道で有名になった事件とは違う展開をみせ、最後のドンデン返しの罠にはまるのである。既存の知識によりかかることの危うさを折原は教えているのかもしれない。評者は江上剛。

推理小説の次はホラー小説である。スティーブン・キング『悪霊の島』(上・下)(文芸春秋、各2000円)―日経―は、決してありがちな内容ではない。身体の欠損部分が傷む錯覚を「幻肢」というが、キングのこの小説は「幻肢」が出ると、予知、透視能力があらわれる超能力が起きる主人公の物語だ。妻と別れ南の島デュマ・キーに住むことになるが少女誘拐事件をきっかけに超能力が起きる。それは南の島デュマ・キーでは「壊れた人間こそ特別な人間」という、島の霊力が宿ることになるのだ。モダンホラーの王者といわれるキングの小説手法を評者風間賢一は絶賛している。人生に対する哀歓、深い洞察がここにあるという。

名著と評者三浦雅士が評するのが富岡多恵子『隠者はめぐる』(岩波書店、1890円)―毎日―である。14章からなる本書は世間話で綴る。巧妙な語り口で一気に読ます。著者の視点は「学問、文芸のような、生涯にかかわらぬことを好んでするために『社会外に居る者』は、その本人をだれが養うかが問題である」と書く。ただ隠者になろうとして仏門をたたいた僧侶(女性)に「お金をもっていますか」と返されたエピソードを著者は書いている。隠者といえども現世と結びつくのだ。露伴に西鶴の面白さを教えたのが寒月だが、生涯遊び暮らした。名利に無欲恬淡。父の遺産で遊び暮らせたのだ。何のども親類に無心した曙覧は、福井の老舗で生まれた人。評者は長流と契沖の同性愛を示唆する第8章以下を白眉とする。

歴史研究書では神奈川大学日本常民研究所編『海と非農業民 網野義彦の学問的軌跡をたどる』(岩波書店、3570円)-奈良―がある。2004年に亡くなった網野の歴史研究は着実に受け継がれている。研究所の人たちによる共著なのだが、網野が非農業民の歴史を掘り起こした能登での調査を思い出す。評者西村博美は平家滅亡後、能登に赴いた平時忠の末裔の「時国家」調査を紹介しているが、ここで非農業民の数多くの歴史を発見した。回船交易を行なったいわゆる「水呑み百姓」と呼ばれた人たち。「百姓」は農民を示すものではないという今では常識になっておいる史実は網野の歴史研究による。網野の「海民」についての講演がCDとして本書はついている。敬称略

2009年10月18日 09:44

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