2009年10月 4日
日曜新聞読書欄簡単レビュー:川瀬俊治
日曜日恒例の新聞読書欄簡単レビュー。歴史関係を中心に紹介しよう。以下、敬称略。
歴史小説から始める。野口良平『「大菩薩峠」の世界像』(平凡社、2940円)ー奈良ーだ。幕末史としても読んだり、忘れられた史実として天狗党処刑(1865年)など知るには格好の素材と評者(嘉瀬井整夫)は説く。無論小説だから事実として読めないが、世界一長い小説を多様な読み方から教えてくれる書として紹介している。「大菩薩峠」はそういう意味では読み方の指南もあって手にとり読み進められる書かもしれない。筆者は全巻買ってもっているが、はじめの50ページほどしか読んでいない。さて野口氏の書で完読のヒントが与えられるか。
歴史関連書といえばジェフリー・エリス『ナポレオン帝国』(岩波書店、2730円)ー毎日ーだ。ナポレオンが旧体制を一変したのではないことを論じる書なのだ。というのは評者鹿島茂によれば英語圏にはロバート・ダートンのような様々な学説を解説、比較判定してくれる歴史家がいるというのである。その1人が著者だというわけである。「軍隊、文官組織、法制、経済、文化などの面でのバランス・シートを作りあげ、ナポレオン研究の現状についての的確な見取り図を書き上げている」と紹介している。評者があげているのが土地流動化と行政・司法組織改革、ナポレオンの軍隊、軍事的栄光の見直し、民法典など論じている。軍事的栄光についてジェフリー・エリスは「ナポレオン自身が戦場で手にした成功には、なにかその場しのぎの結果だった、という印象をぬぐい切れない」とする。将校クラスが欲得にまみれていたとしても、兵士クラスは純粋ではなかったのかという反論にも、「貧困層出身の兵士は愛国心に燃えていたどころか、徴兵逃れや脱走を試みようとあの手この手を使ったのだと。実際、脱走兵と徴兵忌避者は全兵員の五分の一に匹敵していた」。継続史観の典型と評者はいう。バルザック『人間喜劇』の細部を読み解く最良のハンドブックと評者は紹介している。
同じく歴史関係ではティモシー・ガートン・アッシュ『ヨーロッパに架ける橋』上・下(みすず書房、上5600円、下5400円)ー日経ーがある。1993年の作品だが、いまも色あせてはいないと評者(山内昌之)は書く。この書はドイツ統一を分析した内容だ。西ドイツの政治家たちは大戦後、「東方政策の名でソ連との信頼関係を積み重ねながら、ゴルバチョフの登場を奇貨としてドイツ統一を実現した有り様を分析している」(評者)。つまりそこには高度に洗練されたリアリズム政治があるのだ。ただ「権力なき人びとの力」を見落としていたとの見方も紹介されている。ヨーロッパのドイツとしての役割を継続しているのは、東に位置する国々をヨーロッパ共同体に入れるとの予測を著者は執筆当時に本書に書いていたが、その予測は的中している。東アジアの中の日本という我が身に返す視点から本書も読めるし、評者は「ドイツが自国の行為に対して他国から感謝を期待してはならないという警句は、分別のある日本人であれば我が事のように理解できる」とまとめている。
(第1次入力)
2009年10月 4日 10:21
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