2009年9月15日
編集局からの手紙「人が励まされる伝統の遺産とは」:川瀬俊治
作家金達寿(キム・ダルス)は慶州の石窟庵本尊仏(国宝)を訪れ、まじかに端正にして気品あふれる石仏を見てこう語った。「先祖の素晴らしい作品を見てわれわれは励まされる。勇気を与えられる」と(NHK「我が心の旅」から)。そうだ。過去の文化遺産というものはそういうものなのだ。
奈良の長谷寺を訪れて、本尊十一面観世音菩薩立像を拝した。いわゆる長谷の観音さんとして知られる仏像だ。300余の回廊の階段を上り本堂にたどり着いて、その偉容を拝した時、これこそ時を越えてわれわれを励ます民族遺産だと思った。
過去のすばらしい作品や営みがわれわれを叱咤し勇気づける。そのとおりだと思う。ただここで大きな問題に直面する。その傑作の多くが日本の場合、天皇制と関係している。歴代天皇が病気快癒祈願で建立されたとか、である。日本の文化の価値はこうした座標軸をもつ。
その伝統的営みを否定しようとは思わない。しかし民衆の残した文化遺産にわれわれは励まされることができるならこれほど幸せなことはない。なぜならそこには等身大の心身から出た「応援歌」を聞くことができるからだ。
柳宗悦(やなぎ むねよし)が民芸運動を起し評価したのが朝鮮の陶磁器であった点は意味深い。あるいは親鸞が格闘した信仰の追求にわれわれは励まされ、その慧眼に奮い立つ。しかし、日本の文化をそういう側面から考えることがあまり重視されない。作家井すゑは水平社宣言を最高の近代の遺産だと評した。その視点が長編小説「橋のない川」を生んだ。水平社宣言に励まされたのである。
2009年9月15日 23:29
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