2009年7月 3日
書評「美しい家-朝鮮『労働新聞』記者の日記」:片山通夫
世界で初めて社会主義革命を起こし「壮大な実験」を行ってきたとソ連邦が崩壊したのは、1991年12月25日だった。第二次世界大戦で甚大な被害を受けたソ連邦は、スターリンの下で国の再興に成功したかのような印象を受けた。
そして、そのスターリンの「個人崇拝」は中華人民共和国(以下中国)の毛沢東とともに、朝鮮民主主義人民共和国(以下北朝鮮)の金日成の個人崇拝に受け継がれた。その後、中国は集団指導制に移行したが、北朝鮮は今なおスターリン主義の香りの残る「個人崇拝」を強靭に守っていることは、周知の事実である。
本書は、我が国が朝鮮半島を支配していた時代から、第二次世界大戦、朝鮮戦争そして、韓国の軍事政権時代から現代(1998年10月10日)に至るまで、その現場に居合わせた一人の革命家であり、朝鮮労働新聞記者だったという李真鮮(リ・ジンソン)記者が、密かに書き綴った日記の再現である。
韓国で最初に発行された本書は、同国でセンセーションを巻き起こし、日記を書いた記者が実在の人物なのか、それとも編集者であるハンギョレ新聞コラムニストの孫錫春(ソン・ソクチュン)氏の書いた小説なのか論争が起こったという。
しかし筆者は、本書の主人公・李真鮮が、実在の人物なのか否かに関してそんなに重要な問題ではないと考える。それよりもこの日記に描かれている歴史的事実に着目したい。スターリンの死をモスクワ留学中に遭遇し、またそれ以前に東京留学中に知り合った、黄長〓(ファン・ジャンヨブ)ともモスクワで再開したエピソードや、フルシチョフのスターリン批判、金日成の政敵粛清などの歴史的事実の裏に隠されている主人公(これはおそらく北朝鮮の知識階級全般の代表でもある)の心の戸惑い・葛藤に興味が向く。
筆者註:黄長〓の〓は火偏に華
我々読者が知っている事件や歴史的事象が主人公・李真鮮記者の人生と密接にかかわって、李真鮮という革命家が、北朝鮮という国の建国から金日成親子の政治的矛盾に気づいて葛藤して行く様が、彼の書く日記から読み取れる。また如何に強靭な革命精神を持つ主人公でも、愛と革命との狭間で悩む姿も描かれていて、そこに人間的な姿を見て読者はほっとする。
ここでは述べないが「美しい家」という本のタイトルは、まさに言いえて妙だ。本書は、読者にとって、南北朝鮮を中心にソ連、中国、日本を含めた東アジアの生きた歴史書としても良書である。是非お勧めしたい。
本書に関して>>
2009年7月 3日 15:25
ご意見・ご感想は読者の広場もしくは、下記のコメント欄へ
コメントする
なお、著作権上問題があるおそれがある内容、特定の個人・民族・法人等への誹謗中傷、またアダルト・サイトへの誘導などの書き込みがあった場合、管理人の判断で断りなく削除します。