'."\n" ?> 編集委員室:日曜新聞読書欄簡単レビュー:川瀬俊治
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2009年7月19日

日曜新聞読書欄簡単レビュー:川瀬俊治

 日曜恒例の日曜新聞読書欄簡単レビュー。今日は小説、社会評論、アメリカでのベストセラー、現代タイを紹介する本など。(敬称略)

 まず小説だが、丸山健二『百と八つの流れ星』上・下(岩波書店、各1800円)ー日経ーは、評者川西政明によれば新たな丸山の世界が展開された作品ということだが、108とはご存じのとおり人間の煩悩の数である。丸山はこの煩悩を描いているのではない。煩悩からの悟りという彼岸的宗教観を想念しながらなのか、世界そのものを変革させようとわずか一編(42字×18行)を108連ねることで頑強な世界を崩そうとするのである。主人公は人間だけではない。地水火風、花、無機物、死体、再生、嫉妬など。まさしくこれは仏教的世界である。108の解決が1つとして同じものはないとことろに、仏教的世界というまとめがひっくり返される。先ほど紹介した各編の字数が一行もはみ出ることがないというから、もうすごいというしかない。「これまで絶対性を追求しつづけた丸山から若さのかげりが消え、自由の境地に遊ぶ人間的な深みが窺えたのは同じ迷いを持つ世代への大いなる啓示となろう」と評者は述べる。

 日経の「今を読み解く」の特集は「試される厳罰化社会」(評者安富潔)である。藤井誠二『厳罰化は悪いことなのか』(双風舎)は「厳罰化」を「適正化」と呼び重罰化の正当性は、刑罰の社会的機能とともに社会政策の妥当性との相関により決まると紹介されている。光市母子殺害事件で被害者である木村洋は犯罪被害者としての権利としての闘いに挑んだ人だ。木村ほかの『罪と罰』(イースト・プレイス)の中の一文が紹介されている。「犯罪が起こった瞬間というのは加害者を責める世論が強いと思いますけで、その加害者が観念して命をもって償ったあとに、社会の視点が、『やっぱり犯罪は双方を不幸にする』となってほしいなと思うんです」。河合幹雄『日本の殺人』(ちくま新書)は、凶悪事件でも象徴的な殺人を取り上げて、なぜ人は殺人を犯すのか、どう裁かれるのか、広い視野から描写している。犯罪行為を押し止どめ真面目に生きたいとする人間の内在する二面性から犯罪を理解すべきことを指摘する。

 加藤周一『加藤周一戦後を語る』(かもがわ出版、3360円)ー朝日ーは天児慧が評者。時代に迎合せず冷徹でバランス感覚を持ち、同時いん平和主義の信念をもった数少ない戦後派のリベラリストーと天児は表する加藤の評価に全く異論がない。加藤が89歳という高齢で亡くなったとは私には意外でしかなかった。もっと若いと思い、亡くなるとは想像できない言説の瑞々しさを常に有していた。加藤の講演録からわれわれが受け継がねばならない大事な世界を学べる絶好の本だ。書評としては少し平板な気がした。

 ヴィセント・ヴァーガ、アメリカ議会図書館『ビジュアル版地図の歴史』(東洋書林、7875円)ー朝日ーは作家の高村薫が評者。書評では地図の歴史を紹介しながら「ヨーロッパから見た人類の欲望と文化の記憶が、ぎっしり詰め込まれている」とまとめている。世界史を地図制作という視点から読み解くには実に面白い作品だろう。
 
 ナシーム・ニコラス・タレブ『ブラック・スワン』上・下(ダイヤモンド社、各1890円)ー産経ーは牛島信が評者。「歴史は予測できない」ことが理論として書かれている。学者は一部分のことが分かっているが、分かっていないことは分かっていないのだ。「外れ値を予測できない」からだ。表題は「黒い白鳥」の訳になるが、これは「まずありえないもの」を意味する。ブラック・スワンがおきると尤もらしい後付けの説明をする。これを「プラトン化」と呼ぶらしい。9・11が予測できるかというと、できなかった。著者はレバノン生まれ、リスク管理を教えた経歴をもつ文芸評論家。アメリカで150万部も売れている。予測できないことを予測したい読者に答える内容だからか。そうではないだろう。本書で「歴史は予測できない」をどう解いているか読むしかない。

 日本タイ協会編『現代タイ動向 2006ー2008 タイはなぜ揺れるのか』(めこん、2625円)ー奈良ーは評者が吉岡みね子。クーデタから暫定政権、暫定憲法発布、新憲法下の国民投票、総選挙、そして亡命中のタクシン元首相の動向など分かりやすく解説している。国の変容もこの書から知ることができる。高架鉄道、地下鉄のこと、少子化に悩むタイなど。こうしたわかりやすいデーター本が、台湾、韓国、中国、ロシア各国編で編集されてもいい。予断だが、日曜付けで奈良新聞が連載している「神話と歴史のあいだ 記・紀にみる大和の国」は面白い。19日は「和魂・荒魂 日本の霊魂観」で、武智功の日本人の魂への迫り方は神道の祭の原点を御霊の浄化と再生・活性化に求めている。実証する筆に力が入っている。

2009年7月19日 09:50

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