'."\n" ?> 寄稿:◆現代時評:「金色のネクタイ」 ken
寄稿

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2009年11月 4日

◆現代時評:「金色のネクタイ」 ken

◆◆ アサヒコム 2009,10.03 鳩山由紀夫首相が大事な場面で「勝負ネクタイ」として締める金色を基調としたネクタイが、注目されている。問い合わせが相次ぎ、売り場にコーナーまでできた百貨店も。その神通力と人気、いつまで続くか。(中略) 売り場には、首相が愛用していると伝えられるイタリア製を含む、金色ネクタイ6種を集めた小さなコーナーがつくられ、陳列棚には「勝負ネクタイはGOLD」と書かれた表示板があった。金一色のネクタイがあれば、金のストライプ入りのものもある。

■■ 鳩山首相がステージで一席喋るとき、必ずといっていいほど金色のネクタイを締めている。 ファースト・レディー幸夫人のお見立てだそうで、イタリアの服飾メーカー、 ゼニア(zegna)のブランド品とのこと。 試みに、ゼニアのネットで調べると、金色タイの943番はいま売り切れになっているが、日本における小売標準価格は16800円前後、海外では160ドルから95ドルていどで、普通に値引き販売しているらしい。 
 
■■だいたい、表立った場所へ紳士が出てゆくときの、ネクタイ柄はストライプか無地物がほぼ絶対になっている。それ以外の柄物を締めることは先ず無い、というのが然るべき紳士の身嗜みと決まっている。ストライプとは太目の斜め横縞柄で、ふつう業界でレジメンタル・ストライプと称する。 縞は、英国は右上がり(カタカナのノの字の方向)、米国はその反対向きの縞だが、最近のオバマ大統領は英国式の右上がり縞タイを着用しているようだ。 レジメンタルとは「連隊」の意。もともと所属各連隊がスコットランドのターターン・チェックのようにそれぞれ別の縞の太さや色彩の組み合わせで他連隊との識別をしていたのが起源で、いわば各所属集団の紋章のようなものである。

■■ ボクの古い顧客にシアーズ百貨店へ納入するネクタイ・メーカーがあり、40年前にシカゴのその工場を訪問したとき、記念に同社製品のネクタイ半ダースをくれたことがあった。 それがすべて同一の縞柄で、ただ縞の色だけが6本ともそれぞれ異なっていた。 どうせ呉れるなら柄違いのものをと思ったが、貰ってのち数年、その異色で同柄の縞ネクタイを上着の色に応じ交互に着用してみて、その便利さと、趣味の不思議な高尚さに感心した記憶がある。

■■ それともう一つ、10年ほど前に北イングランド数都市へホームステイで親善訪問したことがある。宿泊のお礼にネクタイでもお送りしたいと申し出ると、先方の紳士方は異口同音に「ネクタイをもらうのはいいが、必ずストライプ柄のものにして欲しい」という。 ボクは日本独特の美しい友禅柄のものでもと思っていたが、「カリフォルニアの百姓でもあるまいし、英国ではストライプ柄でないと締めるわけにはいかない」とのこと。 それでボクは、ネクタイ柄にもそれなりの伝統があり、日本のように美しければどんな柄でもいいというわけではない、と知ったのであった。

■■それにしても今回の鳩山首相の金色燦然としたネクタイはいかがなものか、あまりにもけばけばし過ぎないか、と初めのころボクは思った。 ところがネット上の議論で見る限り、だいぶおおぜいの日本人が、あの首相のネクタイに目をつけ、格好いいと思っている形跡がある。 だから街の洋品百貨店では、いま金色ネクタイの品切れが続いているとのこと。 そう思い、あらためて10月26日の議会所信表明演説のときの首相の写真を見直してみた。 するとこれはしたり、なかなか立派ではないか。 

■■ なるほど、過去の首相の正装をした風体(ふうてい)とは少々異なるが、だからといって例えば、小泉劇場首相のような胡散臭さは微塵もない。鳩山首相62歳とはいえ、どことなく昔の若殿ばらの初陣のような清心溌剌の感じがなかなかいい、これはいかす。 幸夫人のファッション・センスの良さだろうか。 争いの修羅場にある政治家たちも、今後こうした身なりの美的感覚が必要だ。

■■ ややこしい政治の駆け引き、鬩ぎあいはいっさい部下の大臣、副大臣に任せきりで、「最後は私が決めます」といいつつ、国内のみならず海外の国際会議で「友愛外交」を吹きまくるのにはあの金色のネクイがいちばんお似合いであろう、とボクは思った。とくに金色服飾品は白人には向かず、有色人種にぴたりと合う。

■■ だいたい日本の、近年の首相・政治家たちは形振(なりふり)を構わなさ過ぎた。 と言うより、「これはいい男」と外国人をして思わしめるような政治家が日本には居なかった。 大久保・牧野・吉田以来の名家の御曹司を売り看板の麻生首相も、いいのは洋服の仕立てだけで、口元が野卑で紳士にほど遠かった。 安部晋三元首相は泣きべその病気姿だけが印象に残った。 福田康夫氏については、実直さは理解できたものの、首相の地位に位負けしてか終始影が薄過ぎた。 小泉元首相の風体は、ポチが飼い主に愛想笑いするさもしさだけがクローズアップされ、議会では大根役者の立ち回り、つまりは品の無さがまともに見て居れなかった。

■■ そこへ行くと今回の鳩山首相。最初、あのぎょろ目とコミカルな人相が気になった。 が、首相に就任したとたん、アレッと驚くほど人相・人品が大きく変わった。 穏やかで貴族的な雰囲気になり、まさに源平時代の若殿ばらの初陣といった感じなのだ。 なぜあのように急激に変身できたか、それを不思議とこそ思え。

■■ おそらくその変身の最大の理由は、よかれあしかれ、斬った張ったの政界闘争の現場から一人距離を置き、世間でいう宇宙人に変身したからであろう。 ややこしいことはすべて並び大名の大臣・副大臣ら政務三役に任せきり、「よろしく頼む、内輪で結論が出ぬときは首相が最後に決断するから」と言い切り、ご自身は国際舞台のスターになりきっている。 まさに大国日本の、天晴れな御大将ぶりと言えよう。 

■■ 鳩山首相の説く「友愛・博愛精神・人間のための経済・世界の架け橋・国民生活第一・弱者救済」は、決して宇宙人の「甘っちょろい夢」では無い。 日本という立派な国の、首相による立派な理想目標であると感心するだけでいい。 首相たるもの、そうした大目標を先ず立て、目先のこまごました政治実務は政務三役に総てこなさせれば、首相の役目はじゅうぶんに果たしている、と解釈すべきである。 それを、「甘っちょろい首相の夢物語」などと貶す(けなす)ような、野に嘯く庶士の下卑た評論などは、とうぶん黙過すればいい。 将に将たるものは些事に拘ってはならない。

■■もし後日、不幸にして鳩山内閣が失政したときは、その軌跡を追って鳩山首相を弾劾するのはとうぜんであるべきだ。 が、いまからその失敗を期待し杞憂で世を惑わすのは、野党たる自民党の政争技術に任せておけばいい。

■■ もっとも、最近の鳩山首相の華々しい変貌ぶりの、後の半分の理由は、あの金色燦然としたネクタイのせいではないだろうかとボクは思う。 日本人は往々にして言う、「日本の紳士、つまり誇り高き武士たるものは華美を慎むべきだ」と。 しかし、かっての日本の武士(もののふ)、必ずしも質素でなかった。 試みにTV映画を見るがいい、直江山城兼続の鍬型竜頭は、いやが上にも美々しく巨大な「愛」の字の金彫で飾られていた。 

■■ いま我らの首相鳩山由紀夫の晴れの門出は、エルメネジルド・ゼニアの金色ネクタイを「友愛」の胸に飾り、日本の新しきリーダーとしての紳士ここにありと、その見識のほどを世界に誇示するのに何の逡巡が要ろう。 今後は、日本の政治家諸君も西欧並みに美しく着飾り、「さすが世界の一等国日本よ」と、諸外国からその精神のみならず、粋(いき)さも共に称えられるようになりたいものである。 

■■ ところで、粋(いき)ということは大事なことである。 戦前の京都大学を代表する大哲学者九鬼周造は名著「いきの構造」を著わし、それは超ロングセラーとしていまなお版が続いている。 われわれ日本人が粋(いき)の心を忘れなければ、たといG8・G20に参加しても、集合写真の隅の方に追いやられることはない。 堂々と写真中央に位置し、世界の超一流国家たり得るだろう。 そして、かっての日本国で流行った、あの「どぶねずみルック」は、もうこの辺りで完全に終わりにしたいものである。 

2009年11月 4日 10:56

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